社会学を専攻したこと

大学では社会学を専攻していました。
同志社大学 文学部社会学科社会学専攻卒業(現 社会学部社会学科)

志望理由

漠然と「人間全体や社会全体を扱える学部」と思って選んでいたので、人間科学とか哲学科とかを併願していました。国公立と他の私大は全滅でしたので、選びようがなく第2志望の同志社の社会学科に進学しました。進学先を伝えにいったら担任がちょっと拍子抜けした顔をしてました。

なんともまあ、適当なもんです。しかし、振り返ってみるに、高校時代「タテ社会の人間関係」とか「甘えの構造」を読んだりして、社会の「構造」とかの方に興味があったり、学校制度の中で鬱憤があったりしたようで、人間が嫌いなのに社会学を志望しました。

とはいえ、社会学自体を本科にしている大学が実は少ない。社会学部でも内部では現代社会学科やメディア学科とかに分化していて、微妙に実務的な内容や応用的な内容をカリキュラムの主目標にしてたりします。国立大学だと学部も少なくて、筑波の社会学類か一橋の社会学部ぐらいでした。

同志社は、純粋に理論を学ぶ「社会学専攻」と他に応用、実務的学科が4つ。在学当時から非常に「実直な」学科構成だと思っています。

  • 社会学科(現 社会学部)
    • 社会学専攻
    • 教育学専攻
    • 福祉学専攻
    • 新聞学専攻(現 メディア学科)
    • 産業関係専攻

「社会学とは何か」に時間がかかる

1年2年ぐらいは大体、社会学関係は概論とか特講しか取れません。他、英語の講読、第2外国語、一般教養として哲学、史学、倫理学、心理学など文学部の基礎科目。あと他学部の基礎科目とか取ることになります。自分は天文学の一般教養向けとか取ってました。

概論的な講義では社会学が対象とする「現象」は何か?社会は何人から成立するのか?というような「社会学は何を研究する学問なのか」「どういう考え方をする学問なのか」という内容があります。この辺は他の学部とあまり変わらないと思うんですが、色々な必修科目で繰り返し言われていたように思います。

特徴的なのが1年次の必修科目では「人文科学と自然科学」「社会学はサイエンスか?スタディか?」というような科学や学問全体に対する社会学の位置づけの話がありました。多分、複数の講義で。

社会学概論は「こういう研究がありますよ」という紹介のような内容で、オムニバス形式でした。教授5人が2コマか3コマずつ、自分の研究内容を話すという。だったら○○社会学みたいな連字符社会学はやらんのか?と思うんですが、1年2年向けには用意してないのです。情報社会学、教育社会学、家族社会学、地域社会学というような、いかにも「キャッチーそうな講義」は、基本3年次からです(2020年には災害社会学という科目がありました)。

社会学概論は、実はもう一つありました。夜間学部向けの教養科目です。こちらは外部の先生が一人で担当されてました。社会学概論 1 が社会学科含めて全日制学部向け、社会学概論 51 が夜間学部の一般教養科目とか、番号で区分されてたと記憶してます。

理論社会学

1年次のカリキュラムでは、大体「社会学は社会をよくするための学問ではない」とか「因果関係はまず証明不能。社会調査ではせいぜい『関連がある』ぐらいしか言えない」などと、学生の持つ漠然とした「社会学への期待」を粉砕してきます。当時は話題だった「パラサイトシングル」とか、「楢山節考」みたいなトピックも入れてありましたけども。あと他学科の講義も取らなければならないので、福祉学入門みたいな講義も取りました。これも、視界を狭くするゴーグルや重りなんかを一人の学生が付けて「高齢者はどういう感覚か?」というのを体験させたり。

1年次や2年次は「基礎トレーニング」だったり「助走」のような期間ですね。

2年次の秋学期に「社会学理論」という必修講義があって、やっとここで社会学の基礎的理論や社会学史を学びます。社会学史の教科書を書いているような大先生が、広島の大学から新幹線で講義しにくるという、今思うと贅沢な講義です。

これは当時、全カリキュラム中で最も難解な講義でした。あらゆる社会現象を一発で切り伏せるような法則なり理論なりの構築を目指してきた社会学の大家の、事跡と概念を辿るわけです。難しいに決まってます。

例えば、AGILはタルコット・パーソンズが提唱したパラダイムで、社会と社会の下位のあらゆる要素がこれらの機能を備えていると考えられます。

AGIL図

こういう概念や視座を教わる理論社会学こそが、他の福祉学専攻や教育学専攻と最も違う点だと思います。

しかし、こんな射程の広い大理論を扱って何か考察するなんて、学部生には無理です。理解すら辛うじてというレベルです。そして、この理論社会学の講義で「現状、あらゆる社会現象に適用できる単一理論や概念の構築は無理だから、個別社会現象から知見を得て積み重ねていくべきだ」というマートンの「中範囲の理論」を知るわけです。

ということで、3年次ぐらいに連字符社会学を持ってきてあったんだと思います。私が履修したのは、地域社会学、家族社会学、情報社会学です。実は2年次からでも取れるので、2年次に履修した科目もあります。これぐらい個別対象に特化した領域なら、まあ学生でも何とかなるでしょう。

他大学に「組織社会学」という講義があって、恩師が担当してました。これは1年の秋学期から履修できるらしいんですが、内容的には2年次以降でないと無理だろうと思いました。

社会調査実習

社会学専攻には3年次に実習がありました。社会調査実習。
私の学部生当時は必修ではなかったですが。

コースは3つ。

  1. 台湾でのインタビュー調査
  2. 企業へアンケート&インタビュー調査
  3. 各種の統計データから統計解析

1は華僑研究をしている先生について現地調査コースです。覚悟を決めた学生しか行かない。2は普通にハードで毎年、中途脱落者が発生する。3はいくらかイージーコース。

私は2を取りました。というのも、ゼミの担当教官が第2コース担当だったのでゼミ生の全員が第2コースを取ることになってました。

先生が提示したテーマ、調査内容に対して、学生はアンケートやインタビューの設問から考えて、先生の伝手がある企業に回答をお願いして、回答内容を分析して考察を書くという、丸1年ずっとハードモードという大変な講義でした。なのに認定単位は4。

夏休み中に、企業にアンケートを送付して回答してもらうため、春学期の3ヶ月で仮説を立てて実際に調査票(アンケート)を作成します。校舎の消灯時間まで研究室に籠もって文言を調整したりしてました。22時だったかな、夜間学部向けの7時限目が夜の9時半に終わるので。

後期の秋学期は回答のデータ入力からです。入力して統計解析ソフトのSPSSでクロス表を作ったり相関係数を求めたりの操作を習いました。

さて、いよいよ分析と考察です。考察内容の大枠なんかを先生やアシスタントの院生に相談しつつ決めるわけですが、まあ皆、なにを書くかが決まらない。データの「読み筋」がよくないとか、論旨に無理があるとかで容赦なくボツにされます。

というのも、最後に作成する「調査実習報告書」は調査に協力いただいた企業に送付するわけですから、学生といえど半端なものは出せません。今後の調査協力にも影響します。その点、指導教官からはかなり強く言われていました。謝礼が出せないので、こういう形でお礼をするしかないのです。

統計データも「当機関の公開しているデータを利用した論文は、論文の写しを送付すること」という利用条件があったりします。

そうして丸1年かけて、調査を行い報告書を書き上げました。

卒業論文

4年次になると、もはや他にやることはなし。

好きな現象に社会学的な考察をして君だけの論文を書こう!

現象は何でもいいです、1対1のコミュニケーションだろうが、国際紛争だろうが、ライフヒストリー(個人の生き様と文化の関係)でも別になんでも。学部のWEBサイトに卒論のタイトル一覧がありますが、まあ色々ありますね。

何についてどういう調査をして何を見いだすか、学生の裁量でやっていきます。まさに4年間の総決算。

まずテーマ、考察の対象が決まらない人は決まらない。
考察の対象を決めても分析の枠組みに何を使うかで苦戦する人も多い。自分は苦戦しました。

この辺りを行きつ戻りつする学生がいる一方、自分で考えた仮説に対しアンケートやインタビューに行ってデータを集めたりする人もいます。集めたデータが期待通りにならなくて、このデータは何を意味するのか?と苦しんだりします。

皆がデータを取るような卒論を書くわけではないです。文献、資料調査から何かしらの考察を行うスタイルもあります。「国勢調査データからこういうことが読み取れる」という話でもいいので、既存のデータ利用でも全然いいんです。ただ「お手軽にまとめました」系の卒論も文献のまとめ直しだったり、既存の統計データをちょっと弄って考察して終了だったりします。とはいえ、指導を受けながら提出したなら大体は通ります。

自分の場合は、前期が就職活動と資料収集で終わってました。
なかったんですよ、使えそうな分析枠組みや資料が。雑誌検索データベースでどうにかヒットしたCG WORLDが、系列の女子大が蔵書にしてたので何とか入手できた資料とかありました。

12月半ばが提出期限なのですが11月の頭に3日ぐらいで草稿叩き込んで、ほとんどそのまま通過してしまいました。字数制限も草稿の時点で超えてたので。同期で文字数不足の人がいて、ちょっと大変そうでした。

指導教官からは高い評価をいただいたのですが、アシスタントの院生からは草稿の時点では「なにが社会学か分からない」と言われてしまいました。

提出できたら単位認定されるぐらいのものですが、やっぱり自分でテーマを決めて一定の質と量を伴ったアウトプットをするのは、大学教育としてやっておくべきことだと思います。

社会学は何の役に立つか?

お金を稼ぐという点では大して役に立ちません。学んだことで実社会に貢献できるか?という点でも、直接的にはあまり貢献できないです。

「社会学を学ぶと社会学者になれる」という学部ジョークがあったぐらいです。

社会調査士という公認資格は取れますが、企業活動としてやってるのは市場調査だったりで、社会調査じゃないんです。微妙な違い。手法は一緒なので、使い出のある資格のはずですが。私も社会調査士と司書を大学の課程で取りましたが、アンケート作成すら実習でやっただけです。インタビューに至っては一回もやってません。

ただ、「社会学的な考え方」や社会学の概念は非常に面白いですし、今の私の思考のベースとして社会学は1つの柱をなしています。

最後に、学部4年で学ぶ内容がほぼ網羅されている「教科書」を紹介しておきます。

「社会学」第五版 アンソニー・ギデンズ著 2009年