シン・ゴジラ見てきました

見てない方向けに適当にスカイツリーから見た東京の写真とか上げておくので、今から映画を見てきて下さい。
ネタバレあります。
スカイツリーより 東京
スカイツリー 足下
はい、見ましたか?見ましたね?
実に泥臭い怪獣映画だった、素晴らしい。
「オキシジェン・デストロイヤー」みたいな、核よりヤバい何かで解決するのかと思ったら、かなり泥臭い方法で倒した。しかも、ほぼ現存の科学技術と組織で。
海外勢は気軽に核を使いすぎ&万能兵器だと思ってやがる 「そりゃ選択肢としてはあるけどさ、選ぶか」。
ハリウッド映画にありがちな「あるんならさっさと使っとけよ」or「ここまでひっぱってきたけど、結局最後は核かい!」の展開になりかけていた、他国の姿勢は後者だった。1954年版では「水爆を生き延びたので核は効かないだろう」ということで、さらにヤバい物質「オキシジェン・デストロイヤー」が登場。ある意味、あれはデウス・エクス・マキナでしたな。今回、各国は核に望みを託しました。
しかも潜水艦発射型弾道ミサイルで仕留めるとか。何にも分かってないな、海外の文官どもは。通常、固定目標に対しては陸上基地からの弾道ミサイルが使われる。移動プラットフォームでは、誤差が出やすい。原潜搭載の核ミサイルは大まかな目標に「報復攻撃」を加えるためのもの。
なにが「これがニューヨークだったとしても、アメリカは同じ決断をする」だ、絶対アメリカは自国にゴジラが上陸したらそんな雑な手は使わん。「自国のために犠牲を強いるのは……覇道です。」「人徳による王道を目指す…か」庵野監督の恩師(?)たる宮崎監督がコミックス版ナウシカで似たようなことをクシャナ殿下に言わせてましたね。
でまあ、ここから先、私が何か感想なり解説を投げるとしたら、何が良かろうか。
ネットワークとかセンシングかなあ。
「社会学」的な何かは、一つだけ、
「ニュータウンをきっちり壊していった、ガイナックス構図で」
54年以降の日本社会の「シンボル」として、ニュータウンがあります。それも壊していきましたね。

1954年に使えるネットワーク、メディア

誰でも使えるネットワークは一つだけある。固定電話である。銅線。
場合によると、バックエンドは手動交換システムかもしれない。トトロでサツキが電話していたシーンを思い返して欲しい、あのシーンでは交換手に番号を伝えて、電話局からの折り返しを待っていた。
マスコミは新聞、雑誌、ラジオ、ニュース映画、白黒テレビがある。ニュース映画!
コピー機はない。活字が必要な文書は和文タイピストが叩くか、写植か活版印刷。
無線は、自衛隊・消防・警察・鉄道…アナログなので無線機があれば民間人も聞ける。ただ、携帯できるものはないかも。
組織としては、自衛隊もなかった。

劇中にあったセンシングとネットワーク、電子的なモノ

民間人が使ってた各種の具体的に特定できそうなWEBサービスは置いておく。

テレビ
「会議中断!テレビ映して!」という官房長官の発言のあとテレビ映像が流れていた。実際、阪神淡路大震災の時、情報はテレビ頼みだったそうだ。特にヘリからの空撮。阪神淡路の時、どういう形で村山総理がテレビを見ていたのかは不明。今の官邸対策室ならその時の教訓を活かして、テレビを映せるようになっているだろう。リアルでは、他にも自衛隊の偵察ヘリからの映像をテレビ局が受けて、オンエアーする経路がある模様。東日本大震災の時の、気仙沼の大火災は自衛隊ヘリからのリアルタイム伝送だった。
国交省河川管理システム
一方、尾頭(おがしら、で読みあってますか?数えるほどしか名前が呼ばれない)さんが「既に自重を支えて歩行していると思われます」という時に見ているのは国交省の河川管理システムで構築されている監視カメラからの映像データである。水害の報道時に目にしたことがあると思う。映像データの全てが一般公開されている訳ではないようだが、一部は常にストリーミングされている。例えば多摩川河口CCTV(惜しい、呑川じゃない!)。国交省本庁からならイントラネットで全ポイントの映像を呼び出せると思う。河川の水面高さなど、テレメトリデータは誰でも見れる。
ディッピングソナー
ヘリから吊り下げるタイプのソナー。海中の音を聞いて、潜水艦を探す用途。もちろんゴジラ探査にも使える。
モニタリングポスト
モニタリングポストからの空間放射線量の増大。これは原子力規制庁、設置密度がこれほどあるのかは疑問だが。気象庁のアメダスと同じように電話回線など経由して本庁でデータをリアルタイム監視しているはず。米軍は自前で基地内においているだろう。他にも横須賀基地は原子力空母が入港するため、神奈川県だか、自治体レベルでも放射線量測定を定期的に実施しているそうだ。
あと、民間人が線量計を持ってる。この時、ネットの動向について総務相から報告が上がってくるのが実に「それっぽい」。通信事業を管掌するのは総務省だから。実際にそういうサーベイを常に行っていて、そういう報告経路があるのかは分からないが。ちなみに電波も総務省が違法無線の監視網を持っている。
C4I
自衛隊の使っている戦術データリンクシステム。C4Iシステムにより、複数台の戦車で同一目標へ精密な一斉射撃が可能。例えば、隊長戦車がゴジラを狙って、その目標データを他の戦車へ送信して射撃するとか。戦車同士だけでなく、C4Iシステムを備えた自走砲(作中155mm榴弾砲)ともデータリンクするし、もしかすると富士のMLRSロケット砲弾部隊ともデータリンクしている。実戦では航空機へもデータリンク可能。F2もC4Iシステムで爆弾の照準データを受け取って投下しているかも知れない。C4Iによるデータリンクは、具体的な描写がない。取材できなかった可能性が結構ある。B2爆撃機もリンク可能なんじゃないだろうか。日米をまたいで可能なのか、若干判断はつきかねるが、アメリカ陸軍からアメリカ空軍へはもちろんリンクできる。「ここに爆弾落としてくれ」と依頼をかけると、近接支援機がデータを受け取って爆撃してくれる。アフガニスタン戦争辺りからこの戦術は普通に使ってるそうだ。
精密誘導爆弾
空爆ではレーザー誘導爆弾により、「直撃」弾を得ている。爆弾でも常に直撃弾というのが現代戦。というのも、昔ながらの無誘導爆弾ではピンポイントでは落とせない。そのため、爆弾は対象を包み込むようにばらまくので、周囲にも大量に着弾する。爆弾からの映像が映されるが、おそらくF2が投下しているのは単なるレーザー誘導爆弾なのでこの画は分かりやすくするための演出。現実にもテレビ誘導ミサイルがある。B2がバンカーバスターをぶち込んでくるが、これも精密誘導システムがあるので直撃を食らわすことができる。

戦術としてここはB2ステルス機である必要性が全くないと思う、むしろB1ランサーでマッハ2で航過しながらバンカーバスターを連続でぶち込んでいけば出血多量でやれたかも知れない。ゴジラのフェーズドアレイレーダーをかいくぐる速度を出せる無人機がないので、マッハ2ならかいくぐれるか、確証が取れないのが問題となる。無人操縦のF15あたりで試していくしかないが、無理という結論が早々に出される可能性が高い。ゴジラの対空兵装はほぼ「光速」で弾着する。そうするとマッハ10以上で大気圏へ突入してくる弾道ミサイルですら厳しいかも知れない。トマホークとか巡航ミサイル搭載の核は論外だ、マッハ1も出ない。地形に隠れて接近する方法も難しい。丸の内のビル群を回り込みつつとなると、ミサイルの旋回半径より大幅に小さいだろう。もし使えるならロシアの超音速対艦ミサイルがある、旧ソ連時代のものなら衛星誘導で核弾頭も搭載可能。
しかし、起爆さえ防げればいいというのであれば、核弾頭の無力化はあまり難しくない。核弾頭はすごく精密に製造&起爆しなければならないから。まあ、ペンタゴンでその辺の起爆高度を検討しているという台詞もありましたが。
このへん、ゴジラが電波妨害やらX線ビームに切り替える知能を持ってなくて助かったと思う。知能に関しては巨災対の生物学者が最初の上陸時にただ歩き回っただけだったと聞いて「コミュニケーションは無理そうだな」と呟くのが印象に残る。

コピー機
立川に移動した後で、対策室の再立ち上げ時にコピー機が並べられていくカット。デスクワーカーは紙で戦ってんだ!54年時点だと青焼きコピーとか湿式コピーとか使ってたはず。湿式はアンモニア臭がすごかったらしい、役所勤めだった母曰く。既決箱・未決箱はずっとあります。やっぱり要るんですね。官僚制は文書主義だからねえ。
分散コンピューティング
この辺は具体的な方法が分からない。ただ、タンパク質(原子構造だっけか)の解析には膨大な計算が必要なので、世界中のスパコンを借りようという。スパコンじゃないけど世界中のコンピュータを借りるという点では、SETI@Homeが有名。単純にデータをスライス(細切れ)にして処理をぶん投げるだけでもいいが、スライス方法なんかを検討している間にタイムリミットがきてしまいそうというか事態は一刻を争うので、リモートから直接データを送り込んで作業できるようにしてくれるとありがたいと思う。そういう使い方は、既存のスパコンも可能なはず。ただ、海外まで開放するというのはやらないと思う。「いいわ、人間を信頼しましょう」
無人機
自衛隊が購入するとかで話題になった「グローバルホーク」でなく、「プレデター」の大編隊。グローバルホークは最新鋭だが、偵察に特化しているため武装がない。プレデターはプロペラ機だが、ヘルファイア対戦ミサイルを搭載できる。アフガニスタンやイラクで、敵の要人を爆殺してんのがこいつ。プレデターやグローバルホークのサイズだと衛星通信経由で米国本土からコントロールされている。こんな大編隊はアメさんも組んだことなかろうなあ。ちなみに、無人機のコントローラーは市販のゲームパッドだったりするとか。また、小型の無人機だと、ノートPC一台で現場でもコントロールできるらしい。
投与率コンソール
最後の「30%完了」「70%完了!」の黒背景オレンジ色の表示コンソールは各ポンプ車からの吐出量を集計していって木構造の最上位にパーセンテージで表示される。これも、センシングとGUIの賜。実際にこれが映し出されていたのはどこなのか不明だが(立川の巨災対?)、実に庵野ガジェットである。
在来線爆弾
電車のコントロールはそう難しくないどころか、線路を走らせるだけなら簡単。別の電車で遠くから押してほっとけば相当長距離は走れる。貨車の入れ替えは「突放」といって、この方法でやっていた。ただし勾配やカーブがあると難しい。特に南側は有楽町駅のカーブを抜けて東京駅、北側は常磐上野ラインも使いたいところでそうなると二段高架の上段を通過させなければならない。でも運転士は要らない。電車の場合、リアルタイムのオペレーションすら、実は不要。あらかじめアクセル(電車はマスコン)・ブレーキの操作タイミングをカーブや勾配などの線形に応じてプログラミングしておけばよい。あとは、ポイントの切り替えか。これもダイヤに従って今は自動でやっているはず。自動運転は、ポートライナーとか、ゆりかもめの無人運転鉄道、一人乗務の地下鉄で実現している。地上鉄道ではつくばエクスプレス。自衛隊が「操縦訓練」「架線も直した」といっていたので、やはり遠距離から出発させて有楽町のカーブを抜けてからアクセルオン、人がオペレーションして最高速度でぶつける戦法だろう。

現場指揮所

ただ、センシング技術がどれだけ進歩していても、現場指揮は指揮所を設けなければ難しい。リモートではタイムラグや突発的な事象に対応しきれないからだ。今回はなおのこと失敗はできない作戦が続く。多摩川防衛戦、タバ作戦の野外指揮所は自衛隊が戦うので、当然、野戦指揮所を構築するだろうと思っていた。ただ、最後のヤシオリ作戦時もきちんと現場指揮所が設けられているのが、泥臭さポイントを上げる。おそらく自衛隊が事前に敵情偵察をして場所を決めたはず。作戦開始まではゴジラの全体像を見通せる定点観測所としても使っていたと思う。位置は、決死隊のごとくゴジラに接近調査する普通科小隊が1カットあったので、そういう実地調査と地形、戦理で決まる。
ゴジラが八重洲側にいるので、無人列車爆弾は東海道新幹線から突入させる。
「無人列車に爆弾を仕掛けて戦うらしい」とは聞いていたが、こんな方法とは。
最新鋭のN700Aが併走しながら先陣を切る、BGMがハマりすぎている。
そしてポンプ車から血液凝固剤を口へ流し込んでいく。
こんな地味な戦いを繰り広げる怪獣映画って…いいと思います。

「この気を逃すな!無人在来線爆弾、全車投入!」

日本の怪獣映画は、やっぱり核使っちゃダメでしょ。
核なしで見事に勝利を収めた、巨災対に拍手。
是非お子さんや若いオタクに見てもらいたい作品でした。

Comments